少し前まで激しく照りつけていた夏の日差しが和らいできた秋空の下、綺麗に整備されたグラウンドに、白い体操着を着た、千人近い学生達が集まっていた。 今日は迦具土学園高等部、体育祭の合同練習日。

台風や秋の長雨等、なにかと天気のぐずつく季節だが、晴天にも恵まれ、普通の学校であれば今日が体育祭だと勘違いさせてしまうほどの賑わいである。

 

その生徒達の中でも一際明るく、良く通る元気いっぱいの声で櫟澤 凪は、宣言した。

 

｢今年の体育祭も、クラス累計得点はボク達C組が頂くよっ！｣

 

ニッと笑顔でガッツポーズを決めると、頭の上から｢？｣マークの様に生えた癖っ毛がひょこひょこと動く。

髪は肩までのショートカット。ボーイッシュな彼女は、この集団の中でも存在感があり、また良く通る声は皆の耳に届き、注意を惹いていた。

特に目立つ癖っ毛、の他にふくよかな胸と女性として魅力的なボディラインの彼女は、どこにいても人の関心を惹き、注目を集める。

常に明るくクラスの中心にあり、裏表無く、誰にも分け隔て無く接する彼女は男女問わず人気が高い。

 

そして、彼女が今年｢も｣と宣言するのは、昨年一年だけの事ではない。

この迦具土学園に櫟澤凪が入学して以来、初等部の頃から、運動会、体育祭において彼女が所属するクラスは毎年必ず、学年のクラス優勝を果たしているのだ。

 

｢フフ、去年はどうだったかは知らないが、今年のA組はひと味違うぞ？｣

 

不敵な笑みと共に周囲の注目を集める凪に話しかけたのは、今年になって入学した留学生、マリジェリカ・テリエ・ソレール。

どこか洗練された仕草や少し固い口調から冷やかな印象を受けるが、サラッとした流れる様な長い髪が頭の両サイドに白い薔薇の髪留めでまとめられていて、彼女の可愛らしさを引き出している。

 

教師顔負けの的確な指導で、一学期の中間テスト学年順位最下位だったA組を、同期期末テストでは見事学年トップに押し上げた。

凪が太陽のように明るく、人を惹きつけ引っ張っていくならば、マリジェリカは月のように静かに人を支え、押し上げていくタイプである。

二年の注目株である二人の遭遇に、周囲の生徒達もざわめき出す。

 

｢ムッ、貴様らっ！　今年は私が率いる紅組が勝利するのだっ！　お前達の良いようにはさせんぞっ！｣

 

互いのライバル心に火を灯し、本番前から火花を散らす二人の間に割って入ったのは、生徒達をかき分けて現れた現生徒会長ゼミニア。

その意志の強さを表す様に頭頂から伸びる癖っ毛は天を目指し、女性的に美しいボディラインと身長に似合わない豊満な胸を惜しげ無く突きだしている。

運動がからきしな彼女が多くの生徒から人気を得ているのは、その大きな胸のお陰……ではなく、何に対してもまっすぐな姿勢と、どんな事態にも怯まない威風堂々と立ち振る舞う、彼女の人柄によるところが大きい事は、迦具土学園の誰もが知っている。

誰が呼んだか「万年生徒会長」ゼミニア。迦具土高等部の筆頭にあげられる人物である。

 

迦具土学園の体育祭は、学年毎のクラスによって競いあうクラス対抗と、クラス毎に分けられた白組紅組によって二分して競いあう紅白戦の二つの形式を採用している。

ゼミニアは三年生であり、クラス対抗には関係しないが、凪とマリジェリカのA組C組は白組であり、二人とは紅白戦上では敵同士になる。

 

去年はあと少しで勝利と言うところで、紅白対抗リレーでアンカーを勤めた凪の、迦具土学園体育祭史に残る、奇蹟の５人抜きによって優勝を逃したのだ。

惜しみない拍手と賞賛の声援で幕を閉じた去年の体育祭だったが、最後の最後での逆転であった為に、五人抜きされて負けた。むしろ清々しさすら感じてはいたが、反面、やはり悔しさは一際激しいものである。

負けっ放しでは居られない……。今年こそは凪の居る白組を下し、念願の優勝を手にするために、ゼミニアを始めとする紅組の勇士達は本番に向けて各々の技に磨きをかけてきた。

 

｢ゼミニア生徒会長。白組の優勝だって、ボクは気を抜くつもりはないよっ｣

 

やる気満々の笑顔で屈み、視線を合わせてゼミニアの宣言を真っ向から受け止める凪。

 

｢クラス対抗では敵同士でも、A組は同じ白組。競い合いながらの共闘。紅組の入り込む余地などない｣

 

マリジェリカも自信を隠そうともせずに不敵に笑う。

周囲の注目が会話と、自分達に目の高さをあわせようと背伸びをしてゆっさゆっさと揺れるゼミニアの胸に集まっているうちに、密かに少し食い込んだブルマを直す。 あくまで平静を装いつつ。

 

｢よかろう。お前達の実力、今日の合同練習で見極めてくれる！｣

 

惜しげもなく豊満な胸を張り、腕組みをして言い放ったゼミニア。

三人を注視していたギャラリーもまた、｢そうだ！｣｢今年は負けないぜ！｣など口々に声を上げる。

 

今日の合同練習は互いに、探り合うための小手試し……。

 

一年に一度しか訪れないドラマの幕があがるのを少年少女達は闘志を燃やして待ち望んでいた。

 

 

 

勇者屋キャラ辞典：櫟澤凪、ゼミニア、マリジェリカ・テリエ・ソレール

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