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2010/08「見返り美人」

2010年9月「見返り美人」

ちょい周囲を確認。息を大きく吸い込み、意を決して、普段出さないような大声を張り上げた。

 

「凪せんぱぁ〜いっ。お迎えに上がりましたよ〜っ」

 

俺の声は、暮れ始めた日の光に赤く染まった二階建てのアパート『櫟澤荘』と、その周辺に響き渡った。

 

 

作戦開始<ミッション・スタート>

 

 

血湧き肉躍る、俺の俺による俺のための作戦は、今始まった。

 

 

「あらあらあら。凪ちゃんのお友達かしら?」

 

やんわりとした可愛らしい声とともに、少々古びたアパートの扉を開けて、割烹着にサンダル姿の若い女性が姿を現した。

 

「ごめんなさいね。せっかく来てくれたのに。凪ちゃん、さっきお祭りに出かけてしまったの」

 

あれ、そうですかぁ。行き違いになっちゃったかな。等と困ったそぶりで答えながら、俺は心の中でニヤリと笑みを浮かべた。

凪先輩がすでにこの地区の夕涼み会に出かけて不在なのは計算通り。先輩に出店のたこ焼き全品50%オフ券をあらかじめ渡しておいた俺の計画に抜かりはない。先輩は学校から帰ってすぐに、祭り会へすっ飛んで行ったはずだ。

 

そう、俺の計画のターゲットは、凪先輩ではなくまさにこの女性。櫟澤千鶴さんなのだ。

 

彼女は凪先輩のお父さんの妹。つまり叔母にあたる方なのだが、「おばさん」と声をかけるのがためらわれるほど若々しい……いや、実際若い。「お姉さん」という呼び方の方が違和感なく頷ける。

去年の運動会の時、保護者席から凪先輩を応援する彼女を初めて見かけ……一目惚れした。

 

まずは自然な風を装って彼女と接触することが出来た。三日寝ずに考えた計画の完成度に酔いしれながら、俺はケータイで先輩に電話をかけるふりをして、そして、「あー、先輩電源切ってるわ。困ったな、お祭りの場所よくわかんねーのに……」と、さりげなく千鶴さんに聞こえるように呟いた。

 

「私もこれからお祭りに出かけるのだけど、良かったら一緒に行く?」

 

困った風な俺を見かねてか、千鶴さんは俺にそう声をかけてくれた。

おお、初対面の俺に対して何という優しさ! 流石俺の女神! ……計算通りですがっ。

 

「マジですか!? あざーす!」

 

無論、遠慮などせずに素直に好意を受ける。

よし、これで千鶴さんと二人でお祭りデートに行ける!

あとは計画通りに完璧なエスコートでお祭りを楽しみつつ、脳内の仮想千鶴さん相手に何度もシミュレーションを重ねた大人な話術で、彼女のハートをがっちりと掴むだけだ。

 

「着替えてくるから、ちょっとだけ待っていてね」

 

「ああ、ええ」と何となく頷いた俺に笑いかけ、彼女は長い黒髪をゆらゆらと背中に舞わせながら、小走りに部屋に戻っていった。

そうですよね。流石に割烹着でお祭りには行けませんよね。

……でも、その格好もとても素敵です。

学園内でも飛び抜けて元気で天真爛漫な凪先輩とは対照的な、しっとりと落ち着いた古風な淑女の雰囲気。俺の好みのタイプと完全一致! 是非嫁に来てほしい!

……いや、まずは落ち着こう。焦りは禁物だ。千鶴さんのハートをがっちりキャッチすること。そう、ハートキャッチ任務こそが今回の計画の最重要事項だ。

 

でも、お祭りの後、あわよくば何処か静かな落ち着けるところで、「こんなおばさんで良いの?」「おばさんなんてとんでもない、綺麗ですよ千鶴さんっ」「ああん。だめっ(はぁと」といった、漫画みたいなベタな展開に持ち込めると最高だが……っ!

 

俺は財布を開けて、来るべきその時のためにと用意しておいた、雑誌についてたプリンスホテルの割引クーポンを忘れず持ってきていることを確認した。よし、ちゃんとある! ポワポワモヤモヤと妄想を展開していた俺の視界に再び千鶴さんが姿を現したのは、しばらくしてからのことだった。

 

「大分待たせてしまったかしら。ごめんなさいね」

 

ボーッと虚空を見つめていた俺を見て、彼女は申し訳なさそうに眉をひそめた。 そんな俺は、彼女の姿を見て一気に現実へと引き戻された。 妄想と現実のギャップに、ではない。目の前に現れた千鶴さんは、妄想の彼女より一層、強烈に印象に残る姿だったのだ。

 

スラリとした、それでいてたおやかな立ち姿を包む浴衣は、ただでさえ女神的な美しさを持つ彼女を、更に一歩進んだ次元の美しさへと押し上げていた。

素材は何なのか解らないが、「薄布」と表現するのが一番ピンと来るソレは、本来ボディラインを隠すはずの浴衣の構造に抗うかのように、普段は割烹着に隠されている千鶴さんの豊満な起伏を忠実にトレースしている。

艶っぽさと凛とした佇まいの同居する様は、鮮烈に、即座に俺の脳に焼き付いた。いいや、自ら焼き付けた。

 

「ええと。どこかおかしいかしら……」

 

「いえ、そんなことねッス!」

 

まじまじと、主に身体を見つめてしまった事への罪悪感を振り払うように、つい声を張って即答。

あ、でもブラは……着けた方が良いと思います。目のやりどころに困ります。……とは流石に言えなかったが。

不安そうに胸を押さえていた千鶴さんは、急に大声を出した俺にちょっと驚いた様子で――そしてすぐに微笑んだ。

 

「良かった。これね、凪ちゃんがプレゼントしてくれた物なのだけど、最近の浴衣はよく解らなくて、ちゃんと着られたのか少し不安だったの」

 

彼女はそう言うと、俺の前でふわりと回って見せた。少女のように。

 

「超……いや、凄く良く似合ってます。ホント」

 

「有り難う。……じゃあ、行きましょうか」

 

振り返り、髪をかき上げた千鶴さんは、俺の言葉をお世辞ととったのかサラリと流して、でも少しだけ恥ずかしそうに笑った。

 

俺は、そんな彼女の素敵な笑顔に心を再び奪われながら、そのムッチリとした輪郭を余すところ無く薄布越しに浮かび上がらせていたお尻に魂を奪われ、顔とお尻を交互に見ながら器用に頷いた。

 

お祭り会場には、予想外に早く到着してしまった気がする。

結局、準備に準備を重ねた俺の素晴らしいトークは、一度も火を噴くことが出来なかった。

……憧れの人と話をする事が、こんなにも難しいものだとは予想外だった。

 

そして、更に間の悪いことに、

 

「あ、来た来たっ。おばさんもっ。こっちこっちー!」

 

会場に着くや否や、やぐらの上でなんかでっかいうちわを担いでた凪先輩に発見され、部活のグループと合流。あえなくお祭りデートは終了。

……ま、それも予想してた。そんな気はしてた。

まあいいや。千鶴さんとは知り合えたし、機会は今後いくらでも作れるさ。

 

だが、凪先輩。これだけは心の声で言わせてもらおう!

 

『千鶴さんは叔母さんだけど、おばさんじゃねぇ! ……あと、薄布浴衣GJ!』

 

 

                                                          文章:撫で斬り

 

勇者屋キャラ辞典:櫟澤千鶴
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