Last UpDate (10/04/28)
今日から新しい任務地。
新たなる場所、新たなる環境。
しかし彼女にとって、それはもういつものこと。
物心が付いた時にはすでに、組織の養育施設にいた。
親を含めた家族の顔も、存在も知るはずもなく、敵と戦う術と生きる術を教えられ、思春期を迎える頃には、組織の一員として、前線に立たされた。
その道を否定するわけではない。自分をここまで育ててくれた組織には感謝している。
自分がしてきたことは人々を救ってきたことだと、誇りに思っている。
ただ、幾度となく繰り返して来た出会いと別れに、少しだけ疲れ始めていた。
ふと、見上げた皐月の空。
風の中を泳ぐ、大きな鯉に目を奪われた。
それは自分ではない、誰かのために上げられた鯉登り。
「普通」だったら、それは自分のためにあげられた物だったかも知れない。
親が居れば……ずっと一緒に居られる友達が居れば……!
自由に空を泳ぐ鯉登りを見た彼女は、今まで秘めてきた想いが胸に溢れてくるのを抑えることが出来なかった。
ふっと瞳に涙が溜まり、こぼれ落ちそうになる。
「お。アンタか、新しい支部長って」
不意にかけられ、急いで涙を拭う。
返事と共に睨み返すと、そこには陽気に笑う1人の青年。
「マリジェリカ・テリエ。ソレールさん……だっけ? ようこそ我が家へ」
右手を差しだし、握手を求める。
「おまえは……」
なれなれしい態度に、訝しげに表情を伺うと、いたずらっぽく笑い返し、
「俺はマルス。施設育ちって聞いてたから、歓迎のつもりで上げといたんだけど……気に入ってくれたか?」
右手はそのままに左手の親指を立てて、後ろの鯉登りを差す。
見上げて無言。
手を握り返す様子もない。
「いや、まぁ子供の日も近いし、女って聞いてたけど、なんかしたほうが良いとおもってさ……」
反応の薄さに気まずくなり、声のトーンが下がるマルス。
そんなマルスにハッと気がつき、すぐに右手を握り返すマリジェリカ。
形はどうあれ、初めて自分のために上げられた鯉登りに見とれていたと、彼には言えない。
自分はプロであり、彼の上司。
つい最近まで一般人として、ぬるい生活を気ままに生きてきた彼に、弱みを見せるわけにはいかないからだ。
彼女の虚勢を知ってか知らずか、彼の握り替えしたその手は、心なしか温かく感じられた。
Copyright(c)2005~2009, オリジナルイラストサイト 「勇者屋本舗」 All rights reserved.
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||