Last UpDate (10/03/09)
春と言うにはまだ肌寒く、冬と言うには暖かい。春と冬の間、新緑が芽吹き始めた森の奧。
人里から遠く離れ、山林の仕事をする者達も立ち寄る事の少ないその場所に、滾々とわき出る温泉があった。
入浴するには温度も丁度良く、この季節ならば、見上げると芽吹きだした若葉も見られる。
お湯も景観も良い、秘湯である。
誰も来るはずのない場所に、この日は2人の美女の姿があった。
「はぁ、いつ来てもここは素敵ね〜」
心から安息のため息をはき、木漏れ日の差し込む天井を見上げながら、満足げに麻莉亜が呟いた。
頭の後ろにまとめていてもなお、長い髪は湯つかり、彼女の今の気持ちを体現するようにゆらゆらと揺れている。
湯面に透けた肢体のラインは、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでおり、女性としてとても魅力的だ。
幼さの残る顔は湯の熱ですっかり火照り、尚更彼女を幼く見せている。
「こらこら。気を抜きすぎだぞ、麻莉亜。誰かが来たらどうする」
心地よさに気の緩みきった麻莉亜を、湯船の外からたしなめたのは、彼女に勝るとも劣らない美しい女性。
タオルで隠してはいるが、引き締まった張りのある綺麗な肢体は、同性すら魅了してしまいそうだ。
麻莉亜とはまた違い、仕草一つ一つがたおやかで、しっとりとした美しさがある。
「大丈夫だって、ガイア。来る時、空から周辺を見て回ったけど、誰も見かけなかったから」
ぱたぱたと手を振り、堂々とした風を見せるが、空いている方の手で近くにおいていたタオルを引っ張る。
湯船に浸かったガイアも、タオルはすぐに手の届く場所においた。
……風が凪ぎ、枯れ葉が舞い散った。
秋に落ちきらず、長い冬を越えた葉が水面へと落ち、風によって出来た波に流される。
見上げた木々の芽吹きと、水面に映った森と枯れ葉で、まるで春と秋とが同時に存在するかのように見えた。
その光景を黙したまましばらく眺める2人。
自然の造りだした光景に心奪われ、潤んだ瞳は火照った頬と相まって、2人を艶っぽく見せていた。
時が止まったような、ゆっくりとした時間。
先に動いたのはガイアだった。
「さて、そろそろあがらないとのぼせてしまうぞ」
言いながら、タオルで身体を隠し、立ち上がる。
もう少し見ていたい光景ではあるが、そのままのぼせてしまって、あやふやにしたくはない。
「あ、じゃあ、私も……」
ガイアの意図を理解したのかつられたのか、麻莉亜も立ち上がろうとする。
その時だった。
ガサッ
ガイアの背後の茂みが揺れた。 2人の間に緊張が走る。
タオルで隠しているとはいえ、小さな布きれ一枚のガイア。
麻莉亜に至っては先程の光景に見とれている間に、タオルはどこかに漂っていってしまっていた。
「ウキッウキッ」
2人の緊張を他所に、現れたのは一匹の猿。 鳴きながら2人に構うことなく、温泉へと身体を沈めていく。
「な、なんだ、猿かぁ」
安堵のため息をつく麻莉亜。 のぞき見されたわけではないと知り、無くなったタオルを探し始める。
ガイアも安心して、近くの茂みに隠しておいた経帷子を着始めた。
しかし……
「あー!」
麻莉亜が突然叫んだ。
何事かと、ガイアも咄嗟に麻莉亜の方へと視線を移す。いつでも動けるように気を張りながら。
その先には、タオルを頭の上にのせた猿と、それを指さし口をパクパクさせている麻莉亜。
どうやら温泉の中を漂っていたタオルを先に猿に取られてしまった様だ。
無防備な姿で手も出せずにいる麻莉亜に、
「タオルを温泉に浸けて入るからだ」
呆れ気味に注意した。
涙目の麻莉亜を他所に、猿はとても気持ちよさそうにしている。
仕方なし、ガイアは麻莉亜にタオルを貸し、事なきを得たのだった。
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