Last UpDate (09/10/23)
小江戸川越市の市街地から少しだけ離れた場所に位置するアパート、『櫟澤荘』。
一昔前の、年代を感じさせるデザインでありながら手入れが行き届き、まるで新築の様だ。
その敷地の片隅では、櫟澤荘が建てられた当時から植えられた木が葉を秋色に染めていた。
「ふう、やっと片付きました」
一息つき、秋色に染まるこの木を見上げたのは、この櫟澤荘の管理人、櫟澤千鶴。
背丈と同じぐらいの竹箒と、足下にまとめられ、山となった落ち葉が彼女が何をしているのかを物語っている。
「貴方が旅立ってから、もう随分立つんですね……」
ふと呟く。
秋のもの悲しげな色が、儚く散って行く葉が、少しだけ昔の光景を思い出させた。
決して長くはなかったけれど二人で歩んだ日々。
冬、雪の降る景色を。
春、散って行く花を。
夏、雨の中を。
そして秋、紅の降る木々の下を。
何年たっても色あせることのない、大切な時間。
彼女を遺し、早くに亡くなった夫。
いなくなって、ぽっかりと空いた穴をうめたのも、夫との思い出だった。
「……貴方の御陰で、今でもずっと幸せですよ」
語りかけたのは、夫と過ごした時間、共にあった秋色に染まる木。
「でも、貴方が居たならもっと……」
少し俯き加減に竹箒を握る手へと視線を落とす。
思い出に焼き付いていた光景が彼女の瞳を潤ませた。
ヒュォォォオー
突如強い風が吹いた。
思わず目を閉じ、こぼれそうだった涙がどこかへと消える。
風が弱まり、ゆっくりと目を開くとそこには、黄や紅の葉の乱舞、まるで桜吹雪のように舞う落ち葉。
秋の日差しと相まって、絶妙で美しい光景がそこにあった。
しばらく見とれる千鶴。
「……そうですね。貴方が作れなかった分まで、私がたくさん思い出を作らなくてはいけませんね」
先程の陰りが消え、彼女の顔にはいつもの笑顔がもどっていた。
まるで優しい誰かに包まれたかのように。
彼女の涙を拭った風はもう、どこかへと去っていた。
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