Last UpDate (09/11/21)
「どうぞ、クリスマスケーキはいかがですか?」
小江戸川越市の市街地、多くの店が建ち並ぶメイン通りに、透き通った声が凜と響く。
道行く人々が声の方へ振り返ると、そこにはシーズン特有の赤い服に身を包んだ、可愛らしい黒髪の少女の姿。
今日は12月24日クリスマス・イヴ。
マリジェリカ・テリエ・ソレールは、北風厳しい寒空の下、大通りの隅っこでクリスマスケーキの街頭販売を行っていた。
売れ行きは好調。
彼女の可愛らしい声と外見に惹かれ、普段は値下げまで待つ人々もつい手を伸ばしてしまう。
「有り難うございました。どうぞ良い夜を。ハッピークリスマス♪」
満面の笑顔で会計を済ませる。
寒さでかじかんだ顔も、その可愛らしさに思わず綻んでしまう。
とても愛想よく、コロコロと微笑む彼女だが、実は秘密組織、ユニバーサル・ジーンネット・ワーク(以下UGN)の一員である。
「黒曜石の魔女」、「UGN小江戸支部のエース」……普段の学生姿とは別の、彼女の本職であるUGNにおいて彼女は誰もが一目置く存在であり、この街の支部長を務めるほどの実力の持ち主だ。
加えて普段の彼女は、仕事中であろうと表の顔である学生であろうと、生真面目で無愛想。その姿からは決して今の姿を連想できない。
しかし、彼女はプロフェッショナルとしてのプライドの高さと性格の生真面目さから、どのような任務であれ全力を尽くす。
(っく、任務とはいえ、何故私がこんな姿でこんな事を……)
多少不満を感じることもあるが、直接の上司からの「任務」。
UGNで幼い頃から育ってきた彼女にとって、上司の命令は絶対……父親代わりでもあった上司の命令とあれば、彼女がこの任務を断れる理由は1つも存在しなかった。
そして彼女は当然のように手続きを済ませ、サンタの服を着衣し、現地へと向かう。潜入任務であれば、決して疑われることの無い様にその職に全力を傾ける。恥や外聞など気に留め、躊躇うことはない。
声優のように甘い声で歌えと言えば歌うし、ギャルに紛れろと言われればギャルの様に振る舞い、企業の窓際係長やメイドにだってなりきり、任務の遂行する。
(こんな所にあいつが来なければ良いが……)
そして彼女にはもう一つ、悩みの種があった。
それは現在、別の任務で行動を共にしている同僚が、この街の住人であること。
しかもその同僚とは、共にいくつも任務をこなしており、他のUGNメンバーと比べて彼女に近い存在であった。
「あれ? マリジェリカじゃないか。どうしたんだその格好」
聞き覚えのある声。振り返ればよく知る男の顔。
「なっ」思わず小さく声を上げる。
(嫌だと思うことはよく起こるモノだな……)
ため息混じりに頭を抱えた。
「どうしたんだよ。さっきまで随分声だしてたのに」
頭を抱えたまま、先程までの声が聞かれていたことに思わず赤面する。
「っく、任務だ。笑いたければ笑えばよかろう、マルス」
観念して顔を上げ、裾の長いジャケットにジーパン姿の青年、マルスを睨み付けた。
「なんで笑うんだよ? その服、似合ってるじゃん。なかなか可愛いぜ?」
普段から軟派な男だが、マリジェリカに対してそう言うそぶりも見せたこともないマルス。
思わぬ一言に、マリジェリカは耳まで赤くしてうつむいてしまった。
「……に、任務の邪魔だ。さっさとどこかへ行け」
蚊の鳴くような声で呟く。
マルスは短くため息をつくと「やれやれ」と肩をすくめ、
「ほいほい。じゃ、またな」
軽く手を振って歩きさった。
(人の気も知らないで……)
ちょっぴり火照った頬を、冷たい風がなでる。小さくついたため息と共に、熱を奪って行く。
胸の切なさはそっとしまって、最後のケーキは自分で買って、彼女は1人の聖夜をひっそりと過ごすことにした。
P.S
この任務に何の意味があったのかは不明のままだったが、後日、ケーキの製造元がUGN傘下のケーキ屋であった事が発覚。
マリジェリカの黒曜石の剣が、上司に制裁を与えたとか与えなかったとか……。
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