2009年3月
「おヒナ様が見てる」
「おひな様綺麗だねぇ」

朱色のひな壇に鎮座した人形を眺め、少女が目を輝かせながら言う。

「フフ、お雛様みたいに綺麗になりたかったら、お母さんの言うことをちゃんと聞いて良い子にしなくちゃダメだぞ?」

その少女をにこやかに見つめ、話しかける父親。
「はーい」と元気よく返事をする少女。

「あらあら。じゃあ、嘘なんか付かない素直な子になってね」

優しく少女に微笑みかける母親

「ぶー、嘘なんかついたことないもーん!」


むくれながら返した少女だったが、内心、気が気ではなかった。

実は先日、母がとっておきにしていたお菓子を食べてしまっていたのだ。
とろけるおいしさの生キャラメル。
母に食べさせて貰った事があるが、「貴重なモノだから」と一つしか貰えなかったのだ。
それを冷蔵庫の奧で発見し、いくつか口にほおばってしまった。

母にばれていないことを祈りつつ、雛人形と家族団らんの時間を過ごした後、就寝時間となった。
まだまだ幼い少女の就寝時間は、父母よりも早い。
自分の部屋へと戻り、床につき、さほど時間を要せず寝息を立て始めた……。

   * * *

「貴女はそれで良いのかしら?」

声にハッと気がつくと、いつの間にか朱色の絨毯の上で正座している少女。目の前には黒髪の……先程の雛人形にそっくりな女性が座っていた。

「な、なんのこと?」

解りつつも誤魔化そうとする少女。「はぁ」とため息をつき、身を乗り出すお雛様。

「母の大事にとって置いた生キャラメル、食べてしまったでしょう? 誤魔化そうとしても、私は全てお見通しよ」

ギクリと、目を背ける少女。「お、お母さんが独り占めするつもりだったからだもん」と、小声で返す。
首を横に振り続けるお雛様。

「アレはね。今日のために貴女のお母さんが頼んだものなの。冷蔵庫に入れる前に貴女に知られてしまったから仕方なく一つあげたけれど、今日、お父さんと三人で食べるはずだったのよ」

「う、嘘……」否定を口にするも、先程の母の言葉を思い出す。

「はあ……お雛様は何でもお見通しなの。ほら、解ったんだったら、今すぐ起きて、お母さんに正直に話して謝ってきなさい。私みたいになりたいんでしょ?」

凜とした笑みを少女に向ける。そして「パン」と両手を叩いた。

   * * *

目を醒まし時計を見る。寝てから数分。意を決して少女は母親の元へと走った。

「お母さん、あのね……」

全てを話し、謝る少女。その頭を撫で、優しく微笑む母親。
その光景を見守るかのように、ひっそりと朱色の雛壇に鎮座するお雛様。
その顔は優しい笑みを湛えていた。


   * * *

「俺たちの仕事は彼女らの厄除けだろ? ちょっと出過ぎじゃないか? ただの手伝いなのに」

少女を見送ったお雛様の後ろから話しかけるお内裏様。言葉に反し笑っている。
クリスマスに続き、雛祭りまで手伝いにかり出された日影蒼牙。

「そう? 私は与えられた仕事をしただけよ。いくらお雛様の代行とはいえ、家族の絆を保つ事だって無病息災の一環よ?」

同じように笑って返すお雛様、ヒナ姫。
「それもそうか」と笑い合う、お内裏様とお雛様だった。

(勇者屋キャラ辞典:「世捨て姫」ヒナ日影蒼牙
2009/22009/4
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