扉が開くと、白い煙が目の前を覆った。
煙はまるで、火事の中、酸素を求め走る人々のように扉の外へと逃げ出してゆく。

(……遂にあの子が来たのね)

それは完全に冷えきり、落ち着き、色を持たなかった乾燥した空気が、扉が開いた事により入ってきた暖かい空気と水気に乱され、騒ぎ出した証。……煙に見えたそれは、急激に冷やされた空気中の水分が蒸気となって現れたものだった。

学校の体育館ほどの広さがある大きな部屋の中心で、その身体には少々大きな椅子に座した少女。彼女の周囲に設置された数少ない照明が、柔らかく微笑む彼女の顔を照らす。

滅多な事でもないかぎり、食事を届ける以外に開く事のないこの扉が開くと言う事は、彼女の待ち続けていた人物が来た、と言う事に他ならない。

「滴水成氷の冷姫」シュレイ

肩口で切りそろえられた湖面のように蒼く美しい髪。そこから覗く白い肌の容姿は、少女のあどけなさが残っているものの、どこか大人びた落ち着きが感じ取れる。
身を包む白いドレスは、彼女の能力に耐えるよう、魔力を込めて織り込まれ、創られた特別製だ。
彼女もまた、魔王の28番目の娘であり、他の例に漏れず、強い能力を秘めて生まれた『魔王の姫』である。
滴り落ちた水が、彼女が一歩近付くだけで、地に着くことなく氷となる……身に纏う強力な冷気が歩く端から、水分を、近付く動く者全てを、氷と化してしまう。それは彼女の能力の付加能力。
決して人に、温もりに触れらぬ力……それが彼女の持つ「制止世界」の能力だった。
近付くもの全てを……運動エネルギーすらも「制止」させてしまう能力。


薄暗い部屋の中を進み彼女の前に姿を現した人物。それは彼女が望んだ、「この戦いを終わらせる」事が出来るかもしれない勇者。すなわち、父である魔王をたおせる者。

「お久しぶりです、シュレイ姉様。お変わり無き様子で安心いたしました」

久々にかけられた、恐怖も軽蔑もない優しい声音、邪気のない笑み。
そう声をかけたのは末妹……今や「漆黒の翼」と呼ばれ、最強の勇者と噂される、37番目の『魔王の姫』旋璃亜。
頭の後ろに纏めてなお、腰の後ろまで伸びた漆黒の髪。この寒さの中でもかかわらず軽装の彼女は、如何なる能力を持つ姉達に対しても気構えなかった昔のままだ。

「良く来てくれました、旋璃亜。貴女も変わりなくて、とても嬉しいです」

小さいが、澄んだ声で微笑み返すシュレイ。

こんな当たり前の様に笑える、笑い合える、争いのない世界を目指して、望む形に違いはあれど、二人は戦いへと身を投じる。

願わくば、誰もが幸せな未来を見る事の出来る世界を……。

(勇者屋キャラ辞典:シュレイ、「聖王姫」旋璃亜
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