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2008.11「漆黒の翼」

「漆黒の翼」

数十分前までは人が暮らしていたであろう家。

数時間前までは、人々が耕していたであろう畑。

昨日までは人々が笑い、行き交っていた街……。

 

それら全てが、今や燃え、踏み荒らされ、街の至る所に、人の死体が転がっていた。

 

その廃墟に一人、少女が立ち尽くしていた。

 

頭の後ろに束ねた長い黒髪、白い鎧と黒いインナーの下に隠された華奢な身体。

外見からは想像しようもない、最強の勇者と噂される、「聖王姫」旋璃亜。

 

しかし、肩を振るわせ、涙を堪える今の姿は、弱く儚い、ただの少女にしか見えなかった。

 

ガラッ

 

音と共に、背後から人の気配。

ふいに現れた生存者の存在に、彼女の表情が一瞬だけ晴れる。

 

が、振り返り、その姿を確認すると、整った顔は曇り、怒りに拳を握りしめていた。

 

「……お前ら、何故、同胞で有るはずの、魔族の街を襲った……?」

 

暗く静かに怒りで震え、途切れ途切れになりながらも、声を振り絞り、5mはあろう巨大な人型兵器に乗る生存者に問いかける。

 

「貴様、何を言っている? この町には、人間に荷担した疑いのある者がいた。しかし、町の人間達は、証拠も有るというのに、頑なにそいつを引き渡す事を拒んだ」

 

こうなったことは、さも当然と言わんばかりに答える搭乗者。

その人型兵器の腕に装着されたサーベルには、赤黒くなった血が付いていた。

 

「どうしてだ、ここまでする必要があっ……たのか……っ!」

 

喉を詰まらせ、肩を打ち震るわせる。

 

「上の命令さ、俺たち兵士は実行するのみ。まぁ、見せしめにもなるだろ?」

 

一息の間。顔も見えない搭乗者の口元が歪んだ気がした。

 

「……フンっ、お前に教えてやったのは、せめてもの情けだ。どうせならすっきり逝きたいだろう?」

 

見れば、機体は炎の赤ではなく、血の黒に染まっていた。

間違いない。それは、その巨体に大量の返り血を浴びるほどの至近で多くの人を葬った証。……殺戮を愉しんだ証。

 

「アーハッハ! 構えろ、抵抗もできない奴等を殺すのも飽きた所なんだ!」

 

言いながらも、サーベルを振り上げる兵器。

もとよりそのつもりだったのだろう。タテマエを並べて相手を圧倒し、それに酔いながら殺す。最低な男だ。

 

「……下郎が……」

 

一言。

 

ガコンっ

 

鈍い音と共にサーベルの付いた兵器の腕が地に落ちた。

振り下ろされたはずの一撃が、目の前の女に届いていない。男は何が起きたのか理解できない。

ただ、白く光る長い得物を持った少女が、そこに立っているだけだった。

 

「− MERCULIUS −」

  メ ル ク リ ウ ス

 

叫ぶと、白い光は急速に収束し、巨大な鎌の形を顕わにしてゆく。

男は思い出した。魔王軍に回された手配書にあった、巨大な鎌を繰る勇者の存在を。

されど所詮生身。この兵器に乗っていれば、勝てるはず。誰もが、少なくとも男はそう思っていた。しかし−−

 

背筋に走る悪寒。男の身体は自然と救難信号のスイッチを押した。

 

打ち上がる信号弾。赤い光が夜明けの近い空を照らす。

 

それを最後に、男の乗る胸部を残し、切り落とされる人型兵器の四肢。胸部落下と共に装甲板ははがれ、操縦席がむき出しになった。

 

「ひいっ」

 

死を予感し、情けない声をあげ、怯える男。しかし、そこに信号弾によって集まった、他の人型兵器が姿を現した。

 

男が九死に一生を得た。と、思ったのも束の間。

 

集まってくる端から、兵器は次々と破壊され、兵士達にとっては一方的な惨劇にも映る壮絶な光景。

 

彼らが街の人々に対して行った、一方的な破壊を、今まさに一人の勇者によって自分たちも体験したのだった。

 

そう長い時間を必要とせず、やがて、戦いは終わった。

 

けれど、命令を口実に殺戮を愉しんだ兵士、破壊を行った兵士達は、一人として殺されることはなく、ただ呆然と朝が近付き白んできた空をみていた。

 

……

 

「お前達のしたことは決して許すことはできん。が、もしもその過ちに気づき、贖罪するつもりがあるのならば、軍を抜け、人々のために生きろ。しかし、まだこのようなことをするようならば……次は無い」

 

兵士達から眼を一瞬もそらすことなく、告げる旋璃亜。

朝日を背にし、逆光を纏った姿は、兵士達には、光を背負う天使にも、背を向ける暗き闇の堕天使にも見えた。

 

そして、兵士達を置き、廃墟となった町に十字架を立て、人々の魂を弔うと、旋璃亜は町を後にした。

 

後に、この出来事と、異常なまでの功績に、人々は彼女のことを畏敬の念を込めこう呼んだ、

 

「漆黒の翼」

 

と。

勇者屋キャラ辞典:「聖王姫」旋璃亜
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